4回にわたって、キビまる豚のことを書いてきました。600年の歴史、アグーとの違い、30度で溶ける脂肪、沖縄の土地を食べて育つという事実。読んでくださった方には、この豚がどういうものか、かなり伝わったと思います。では、私たちがなぜこの豚を選んだのかを、正直に話します。理由は、思ったよりシンプルです。
■ 最初に感じたのは、理屈ではなかった
キビまる豚と出会ったとき、最初に動いたのは頭ではなく、体でした。
一口食べて、何かが違うとわかった。柔らかい、甘い、とける——言葉にしようとすると陳腐になってしまうのですが、その感覚は確かなものでした。なぜそう感じるのかは、後から調べてわかりました。脂肪融点が30度であること、豚肉では珍しい赤身にサシが入っていること。遊離アミノ酸が豊富なこと、オレイン酸を多く含むこと。飼料にこだわりを持つこと。でも選んだ理由は、その数字ではありません。
一口食べたときに、体が先に「良い」と感じた。それだけです。
これは私にとって、特別なことではありません。アパレルで服を選ぶときも、食材を選ぶときも、ずっとそうしてきました。「なぜ良いのか」を先に調べてから選ぶのではなく、良いと感じてから、なぜ良いのかを確かめる。その順番を崩したことは、一度もありません。
■ 20年のモノづくりで学んだこと
アパレルの現場で20年以上、服のモノづくりに関わってきました。機能性、軽量化、耐久性——数えきれないほどの「付加価値」を詰め込んだ服を作り続けて、最後に辿り着いた真理がひとつあります。
「どんなに優れていても、着てみて心が動かなければ、選ばれない」。
どれだけスペックが高くても、どれだけ技術が詰まっていても、袖を通した瞬間に何も感じなければ、その服は棚に残ります。消費者は正直です。理屈ではなく、感じた瞬間に手が伸びる。
食も、まったく同じだと思っています。どれだけ希少で、どれだけ科学的に優れていても、一口食べて何も感じなければ意味がない。グルテンフリーであること、沖縄産であること、HACCP認定を取得していること。それらはすべて、私たちが選んだ後に確認した根拠です。順番が逆ではない。
感じることが先で、理解するのは後でいい。キビまる豚を選んだのも、その順番でした。
■ 「良い素材」には、語る責任がある
一方で、ただ「美味しいです」と言うだけでは、私たちの仕事を半分しかしていないとも思っています。
なぜ美味しいのか。どういう背景があって、どういう人たちが、どれだけの時間をかけて作ったものなのか。その物語を知ることで、一口の重みが変わる。食べた後に腑に落ちる感覚が生まれる。
今回この連載を書いたのは、そのためです。キビまる豚の歴史、血統、飼料、科学的な根拠——すべてを並べたのは、理屈で選んでほしいからではありません。食べた後に「あの感覚の理由がわかった」と思ってもらえる場所を、作りたかったからです。
感動は一瞬で生まれる。でも、その感動を豊かにするのは、知識と物語です。
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